‡ わすれもの ‡

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      『……織人、ありがと。 ちゃんと別れてきたよ』 真佑巳と別れた日の夜。 私は織人に電話を入れた。 背中を押してくれたお礼を言いたかったから。 真佑巳に冷たくされた理由、珠希の怪我のこと。 二人としっかり向き合って自分の気持ちを伝えられたこと。 直子と織人の後押しがあったから、後腐れなく、思い残すこともなく別れられたのだということ。 織人はしっかりと相づちをうちながら聞いてくれた。 そして──。 『疲れただろ? 今夜は酒でも飲んで早く休め。な?』 『うん』 『……よく頑張ったな、陽。 今度、苺牛乳プレゼントするよ』 『あはは……ありがと。 楽しみにしてる』 それだけの会話だった。 けれど、私の胸にはとても温かく染み入った。 こうばしい匂いのたつ味噌汁を、ゆっくり一口、味わって飲んだときのように。 織人の優しさは、けして押しつけない優しさで。 いつも私の心を温かく満たしてくれる。 気づけば頬を涙が伝っていた。      
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