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「おめでとう。
……山下陽さん、だって」
「うん。そうだよ?」
「照れる……」
「山下陽さん」
からかうように言いながら織人の手が伸びてきて、私の頭を撫でる。
ちらっと横目で見ると、今まで見たことないめちゃめちゃ可愛い顔で織人が笑ってる。
淡いブルーのサングラスごしなのが実に惜しい。
「えへへへ……」
「あはははっ──」
織人が私のへらへら笑いにつられて、声をあげて笑った。
陽気な笑い声が車内に響く。
私は自分から手を伸ばし、織人の左手を握った。
織人は優しく握り返してくれる。
自然に笑えている自分が、すごく愛しく思えた。
織人。
ありがとう。
私を好きになってくれてありがとう。
私、ずっと、ずっと織人を信じてついていくよ。
っていうか……。
織人と一緒に居るだけで幸せなんだから、そんな大げさな誓いはいらないか。
織人の手を握ったまま前を向く。
窓から、風と一緒に入り込む街路樹の匂い。
私は目を閉じて、春の空気を味わった。
桜の芽がほころぶ季節に。
私は『山下陽』になった。
── 終 ──
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