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織人のアパートで生活するようになってから、4年目の春を迎えた。
直子は昨年の夏、男の子を出産し母親になった。
愛息の名前は明仁(あきひと)という。
『アキラと織人くんとは無関係だからね』って。
直子ってば、にやにやしながらわざとらしく言った。
『いい名前だね』という私の言葉に、『そうでしょー』と、相変わらず手加減なしで私の背中をばしばし叩く親友。
赤い個性的な髪も健在だ。
いっそう魅力を増す親友をまのあたりにして、母になるってすごいことなんだな……ってしみじみ思った。
そして、かけがえのない人の──。
織人の子供を産みたいと思う気持ちが日に日に強くなっていった。
まだ結婚の約束すらしていないのに。
「陽……。
俺と結婚してください」
そんな私の願いが届いたのか、3月に誕生日を迎え私の年齢に並んだ織人がプロポーズしてくれたんだ。
『俺たち、そろそろ結婚するか』でも『結婚しよう』でもなく、『結婚してください』と、こたつの向こう側できっちりと正座して、深く頭を下げる織人を見て──。
『あぁ、やっぱり織人はどこまでも誠実な男なんだ』って、胸の奥から温かいものがこみあげて、私も居住まいを正して誠心誠意応えた。
「はい。
私でよかったらよろしくお願いします」
本当に不束者ですがって思いをこめて、私も織人に負けないように深く深くお辞儀を返したんだ。
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