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4月──。
市役所に婚姻届を提出に行った。
これが所縁(ゆかり)というものなのか──私たちは意外な人物に再会した。
織人が私の手を引いて、背中を向けて何か手続きをしているその男に近づく。
瞬時には、その白髪頭の初老の男が誰なのか解らなかった。
織人の職場の人なのかな──なんてのんびりと構えて、織人の斜め後ろをついていく。
「お久しぶりです。
先生」
男にそう声をかけると同時に、織人は私の手を強く握った。
ゆっくりと振り向いた男は、いぶかしげな表情で織人と私をまじまじと見た。
──田浦。
私のトラウマの元凶が目の前に立っていた。
膝と、織人に繋がれていない方の手の指先が細かく震え出す。
織人は繋いだ手をそっと外し、私の背中に添えた。
その温かな手のひらが私に落ち着けと言っているようで、私は細く長くゆっくりと息を吐いた。
「憶えてますか?
一色です。
小学校でお世話になりました」
田浦は眉間の皺を深くして思案していたが「……あぁ!」と声をあげた。
「一色くん。
そうだ、思い出したよ。
優等生の一色織人くんだね」
変わらない、もったいぶった話し方。
「優等生ぶっていただけです。
それと……中学のとき両親が離婚したので、正確には一色ではなく山下織人です」
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