‡ 3年後の私 ‡

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    とっくに田浦の身長を追い越した織人は、かつての担任を落ち着き払って見下ろしている。 「そうか……。 ご両親離婚されたのか。 大変だったね」 田浦は型通りの言葉を、さも気の毒そうな表情で織人にかけた。 「いえ。 大変だと思ったことはありません。 ずっと、彼女が支えになってくれたので……」 織人は私を見つめ、柔和な笑顔を浮かべて小さくうなずいた。 茶封筒を小脇に抱え直して、田浦は私に視線を移す。 「……こちらは一色くんの奥さん?」 「…………」 田浦は私を憶えていないようだった。 それとも、憶えていないふりをしているのか……? 『奥さん?』と尋ねる様子に不自然さは感じられない。 私には、あの頃の面影がないのだろうか? 薄化粧だし、髪型も当時とさほど変わっていない。 「相馬陽です」 私はわざと名前だけを言った。 そうして、田浦を真っすぐに見据えた。 不思議に身体の震えは止まっていた。 目の前の田浦は、ただ無駄にガタイのいい、どこにでもいる白髪頭の冴えない初老のオヤジだった。 こんな男に──。 こんな男の影に私は──。 長い間縛られていたのか。 織人の手はずっと私の背中に添えられている。 それだけで、自分が強くなれる気がした。     
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