65人が本棚に入れています
本棚に追加
――あと2時間。
いくらメモ書きで構わないと言われても、予算内に収まる気がしない。
資料をもう一度引っ繰り返す。
(やっぱりダメだ……。立ち退き住居が20軒近くなる……。)
環境整備なども費用を見積もったら、とても3000億円では賄いきれない。
(あれで良いって言った癖に……。何で今さら!)
苛々した顔付きで受話器を置くと、地図を広げて眺めた。
「どうした、内田? 訂正か?」
休憩から戻ってきた五十嵐が、声をかけてくる。
「根を詰めすぎるなよ? 今やってるの、締め切り、だいぶ先の仕事なんだろ?」
「――違います。今はさっきのと別件で。あと二時間で案を出せって言われたんです。……この間は、プレゼンした内容で気に入ってたはずなのに。」
そして、高津の無茶苦茶な要望を列挙する。
「――腕を買われたもんだな。」
「関心してないで、何かいい方法ないですか? ちなみに制限時間あと70分なんです。」
「――は?」
「……予算は?」
「3000。」
五十嵐はそれを聞くと、休憩から戻ってきた同僚にも声を掛けて呼び寄せた。
それをきっかけに「なんだ、なんだ」、「どうした、どうした」と人が集まってきて、気が付けば内田を中心に人集りが生まれる。
「三人寄らば文珠の智恵って言うだろう?」
高津の無茶苦茶な要求を、みんなで寄ってたかってやっつけていく。
しかし、途中で陸橋派とトンネル派で分かれた。
「予算が3000億あっても、立ち退き戸数が多いと厳しいな……。トンネルでも掘るか?」
「いや、予算からいけば陸橋だろ。」
「電信柱がなあ……。」
「そんなの地下に埋めれば良いし。」
その後も二つの案は平行線で交わらない。
――あと20分。
「……す、すみません。そろそろ書き始めないと。結局、どっちなら予算内に収まりますか?」
内田が制裁に入ると、全員が時計を見つめ、視線を逸らす。
「……アアッ、と! 俺、そろそろ、自分の仕事に戻らないと。」
「へ?」
「お、俺も!」
そして、わらわらと人集りが崩れていく。
(もしかして船頭多くして、なんとやら……。)
内田は苦笑いをしながらお礼をした上で、ガリガリと図案を一心不乱に書き始めた。
最初のコメントを投稿しよう!