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「……平気、か?」
「平気じゃないですけど、こうなったら何とか誤魔化します!」
殺気立った内田の様子に誰もが息を呑む。
時はあっという間に過ぎて17時10分になる。
高津は再び内田に電話した。
『はい、内田です。』
「まだ、出来ないのか?」
『さっき、そちらにFAXしましたけど?』
トントンとノックされる。
「先生、FAXです。」
「……今、来た。」
『それで良いですか?』
会釈する秘書をそっちのけに図案の縮刷と見積を見る。
「――この2980億からって言うのは?」
『あとは騒音と空気汚染の賠償次第。』
「そこを加味して出すんじゃないのか?」
『立ち退きの分を出すので精一杯です。』
「半分は地下ね……。」
『住宅街ですから止むえません。』
「まぁ……、良いんじゃないか。敲き台とでも言っておくさ。」
愉快そうな高津の声に、内田は一つの考えに至って歯ぎしりする。
(……絶対、敲き台レベルのを作らせる為に17時までって言ったな。)
「――あんた。」
『亜希と同じで遊び甲斐があるな。』
「やっぱり……。」
くすくす笑いが漏れ聞こえる。
『本当に楽しいよ。』
「あんたなあッ!!」
『じゃあ、また後でな。』
「――行くかッ!」
『お前は来るさ。その仕事、好きなんだろう?』
それは脅しにも取れる文句。
「……行かなかったら、話を白紙に戻すとでも?」
『いいや。お前の仕事はこのFAXまでで十分だ。……だが、何も知らずに巻き込まれるのは嫌だろう?』
(……なっ?!)
高津の言葉に声を失う。
――嵐が来る。
『――メールするところに19時に集合な。』
それだけ言われて電話が切れる。
『……俺はお前の面倒まで見切れないからな。』
高津の言葉を再び思い起こす。
『自分の身は自分で守れよ?』
(――ここからは『自己責任』って事か。)
高津の言う通り、何も知らずに巻き込まれるのは嫌だ。
結果として同じように巻き込まれるならば、自分の目で見聞きして判断をしたい。
内田はため息を零した。
――場所は銀座。
19時集合だと、定時の18時に出て、ぎりぎりに着くかどうかの時間だ。
「今日はみんなして残業申請してきて。何してたんだか。」
出先から帰ってきて、机の上に置かれた申請書を見ながら、課長の新井がため息を吐く。
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