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17
その日は比較的平穏に一日が過ぎていった。
(一息、入れよっと……。)
そう思って腰を浮かせたところで内線が鳴る。
「はい、内田です。」
『外線二番に高津様からお電話です。』
「……はあい。」
コーヒーでも買って、一休みしようと思っていたのを見ていたかのようだと思いながら、電話を替わる。
「替わりました、内田です。」
『……出るのが遅い。』
「仕方ないでしょう、外線ですから。」
『……普通は申し訳ございませんだろう?』
「普通の顧客には、そうしてます。」
『――ほう?』
売り言葉に買い言葉で、ぴりぴりとした雰囲気が辺りに立ち込めていく。
『まあ、いい。……昨日、見せてもらったのとは別に3000程度で出来る案を至急作ってくれ。走り書きのメモでも構わない。』
「……はい? 昨日はあの図案で予算を計上するって言ってたじゃないですか。」
『ああ、するぞ。』
高津の声色は「当たり前の事を聞くな」と言わんばかりだ。
「じゃあ、なんで別の案がいるんですか? こっちだって、予算計上に使われない案まで出すほど、暇じゃないんですけど。」
『――俺だって、暇潰しに言ってるわけじゃない。お前、あの橋を架けたいんじゃなかったのか?』
「そりゃ、架けたいですけど。それとこれと、一体どういう……。」
しかし、高津はその問いに遮るようにして言葉を続けた。
『――それなら、構わない。ともかく3000くらいで計上するような図案を作れ。』
「だから、何でですか?」
『お前、本当に営業には向かないな……。』
「はい?」
高津が呆れ声で呟く。
そして、静かに言葉を続けた。
『……つべこべ言ってると時間が無くなるぞ?――締切は今日の17時まで。仕事をしないって言うなら、この話は白紙だからな。』
「今日の17時!?」
『ああ。バイパスは使うなよ。今ある道を拡幅する感じで頼む。』
高津からの次々言われる難題に、途方に暮れながら内田は時計を見上げる。
時計はちょうど15時を回ったところだ。
『じゃあ、頼んだからな。』
「あ、ちょっと?!」
そして、一方的に電話は切られる。
「高津さん!」
しかし、返ってくるのは冷たい「ツー、ツー」という電子音だけだ。
内田は苦々しい顔をして、思わず机に突っ伏した。
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