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「何だよ、これ……。」  開いた本のどれにも、先回りしたかのように付箋が張られてある。  久保はぱたんと音を立てて本を閉じると、ソファーに座って顔を覆った。  目頭が熱くなって、口が元が歪む。 「くそ……っ。」  まるで、亜希に「いらない」と言われているような心地になる。 (泣くな……。)  泣いたところで、何も変わらない。  ――それでも。  ぼたぼたと夏の夕立の降り始めみたいに、指の隙間から大粒の涙が零れる。 『……あなたこそ、亜希が傷付くような事を何か言ったんじゃないのか?』  高津の言葉を思い出して、目頭が熱くなり眉根を寄せる。 (亜希……、ごめん……。)  亜希との思い出が、次々と頭の中を過る。  頭の中は真っ白になり、堰を切ったみたいに涙が溢れてくる。  久保は嗚咽を堪えられずに泣き崩れた。  亜希が傷付くと知りながら、なぜ彼女の気持ちを試すような事を口にしたのだろう。  もし逆の立場に立たされたならば、泣き付く事も、祝福する事も出来ないだろうに。 (また、俺が傷付けた……。)  ――俺のせい、だ。  思い返してみれば、あの時の亜希の指先は、緊張のせいかひどく冷えていた。  一体、どこで、何を間違えてしまったのだろう。  窓の外の蝉時雨は未だ止む様子はなく、空には白い入道雲が浮かんでいる。 「……久保さん?」  亜希の声に、ハッと我に返る。  彼女は物珍しそうに、カラーボックスの上のチラシに目を通していた。 「――私、ここに居たんだね。」 「ああ……。」  亜希はしばらくじっとチラシを読んでいたが、やがて残念そうな顔をした。 「ダメだ……、全然、思い出せない。」  その言葉に久保はゆっくりと瞬きをする。 「学校に来れば、何か思い出せるかなって思っていたのに……。」  面白く無さそうに口を尖らせて、亜希が長椅子に腰掛けると、久保はくすりと微笑んだ。  ゆったりと歩み寄ると、その隣に腰を下ろす。 「……そんなに急がなくて良い。」 「え……?」 「ゆっくりで良いんだ。」  その声は病院で聞いたのと同じように優しく、その癖、やけに物哀しく耳に響く。 「君が幸せになるのが、何より一番だよ。」  亜希は急に胸が苦しくなって、呼吸ができなくなった。
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