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 自分が久保に感応しているのがよく分かる。  彼が笑えば嬉しくなるし、彼が哀しめば泣きたくなる。  今は声にならない程、哀しみで胸がいっぱいだった。 (内田といる時には、こんな風には感じなかったのに……。)  亜希はわなわなと肩を震わせると、堪え切れずにポロポロと涙を溢す。 「ちょっ……、進藤さん?!」  久保はおろおろとし始める。  亜希は手で涙を拭い、目を真っ赤にさせたまま、潤んだ瞳で久保を見上げた。 「――それなら何で、そんな泣きそうな顔するの?」  言葉に窮する。 「泣きそうな顔なんて……。」  「していない」と言い切りたいのに、喉の奥がじりじりと熱くなってくる。  ――会いたい。  もう一度、あの日の亜希に会えるなら、抱き締めて決して離さないのに。  久保は真一文字に口を引き結ぶと、視線を逸らして俯いた。  そのまま懺悔するかのように目を瞑る。 (もう亜希を傷つけたくないのに……。)  潤んだ瞳の彼女を前にすると、ひどく心が乱れる。  自分の本心を告げたら、今の亜希を追い詰めてしまうだろう。  ――だけど。  叶うなら、もう一度、自分のことを思い出してもらいたい。  もう一度「貴俊さん」と呼んで欲しい。  それが今の亜希を追い詰めるとしても。  久保は聞こえるかどうか分からないくらいの擦れ声で小さく呟いた。 「……会いたい。」  声にしてしまうと、余計に思いが募る。  ――会いたくて、堪らない。  この部屋には良い思い出も、悪い思い出も、彼女を思い出すよすがが溢れ過ぎている。  久保は腕を伸ばすと、亜希をそっと自分の胸に引き寄せた。 「気にするなって言おうって思っていたんだけど……、悪い……。」  泣きそうな眼差しで無理に笑う久保の姿に胸がズキンと痛む。 「――少しだけ、このまま。」  その声の最後の方は擦れ、震えていく。  それとは逆に、抱き締める力は強くなる。  ――胸苦しい。  久保の鼓動とともに、切ないまでに「前の自分」を欲する彼を感じる。   ――卒業して五年。  奈美に手渡された手帳に挟まれていた写真は、実際の久保よりも少し若かったから、きっと学生時代に撮影したのを持っていたのだろう。  そして、あの写真を見た時、前の自分にとって「久保 貴俊」は大事な存在だったに違いないと思った。
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