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 日差しが遮られ、中は意外とひんやりとしている。 「あ……上履き、忘れちゃった。」  後ろで亜希が呟く声がする。 「そこの棚のを履いておけばいいよ。」  久保の指さした棚の扉には「進藤」と書いてあって、中には一足のスニーカーが入っていた。 「……これ、履いていいの?」 「もちろん、君のだからね。」  おそるおそる床に置いて履いてみる。 (あ、ぴったり……。)  まるでシンデレラがガラスの靴を履いた時みたいだ。 「準備、出来た?」 「あ、うん……。」 「じゃあ、行こうか?」  並んで歩くと、久保は頭一つ分背が高い。  歩幅を考えれば早足になってもおかしくないのに、ちゃんとペースを合わせてくれている。 (内田とは、大違い……。)  亜希がふっと笑うと、久保は形の良い眉をくいっと引き上げた。 「何か、面白いものでも見つけた?」 「ううん。ちょっと思い出し笑い。」 「思い出し笑い?」  「うん」と頷いて、久保を見上げる。 「この間ね、内田と買い物行った時とは大違いだなって思ったの。」  カフェを出た後は手を引く事もなく、「脚の長さのせいだ」なんて言いながら、どんどんと先に行ってしまうから、歩いた割にはゆっくりウィンドウショッピングを楽しめなかった。 「へえ、二人で行ったの?」 「うん。誰かと一緒じゃないと外出しちゃダメって、お医者さんに言われてて……。」 「一人の外出は禁止?」  こくんと頷く亜希は、触れれば崩れてしまうような気配がした。 (この状態で、何か想い出したら……。)  高津との事で、何も食べず、一睡もしなくなった亜希が脳裏に過る。 (いや、それどころか……。)  パニック状態に陥り、再び自傷行為を起こすかもしれない。  そう思うと真夏だと言うのに冷や水を浴びせられたみたいに背筋がゾクッとする。  久保はぴたりと歩みを止めた。 「――久保さん?」  亜希が怪訝そうに見つめてくる。  久保は一度深呼吸をすると、口重たそうに話した。 「学園探検は、また今度にしようか?」 「え……?」 「……何か思い出したら、心に負担が掛かるだろう。」 「そんなに、心配しなくても。大丈夫だよ?」  しかし、久保は口を真一文字に引き結び、黙り込んだままだ。  亜希はしょんぼりとして泣きそうな顔になった。
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