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「本当に平気だよ。ここ一週間、ピンピンしてるもの。」  それでも久保の表情は芳しくなく、首を縦に動かす様子はない。 「……疲れたり、具合が良くなくなったりしたら、ちゃんと休むから。」  亜希の顔には「だから、『学園探険を止める』なんて言わないで」と書いてある。 「ちゃんと休むか?」 「うん。」  久保はあまりに必死な亜希の様子に、ほうとため息を洩らすと肩を竦めた。 「……それ、約束な?」  根負けをしてそう答えると、亜希は嬉しそうに頷いた。  その姿を見ていると、愛おしさが募ってきて、胸の奥がむず痒くなる。 「――じゃあ、指、出して。」 「指?」 「そうだよ。ほら、手を貸して。」  そして、小指をピンと立てて、きょとんとしている亜希の細い指を絡め取る。 「……指切りげんまん。」  そのまま「嘘ついたら」と調子外れに歌う久保の顔を見つめていた亜希は、ふっと笑みを漏らした。  ――無邪気な笑顔。  その笑顔に見惚れて、歌の続きを歌いそびれる。  亜希は楽しげに笑ったまま、久保の歌を引き取って「針千本飲ます」と続きを歌った。 「ちょっと、久保さんも歌ってよ。」 「ん……?」 「一緒に『指切った』って歌ってってば。せーの。」  そして、二人で声を合わせて「指切った」と口ずさむ。  久保は胸が締め付けられるような心地に、目をすっと細めた。  亜希が屈託なく微笑むと、そこを中心に世界がキラキラと輝いて感じる。  ――解けた指に、力が入らない。 「指切りなんて、小学生みたい!」  そう言って笑う亜希の笑顔を見ていると、胸が張り裂けそうに苦しくなる。  もし、亜希にこの春から夏にかけての記憶が残っていたならば、彼女はこんな風に自分へ笑い掛けただろうか。  ――いや、きっとあり得ない。  久保はティーシャツの胸の辺りを掴むと、ぎゅっと強く握り締めた。 「ねえ、久保さん。約束守るから、探険に付き合ってくれる?」  上目遣いでおねだりをされて断れるほど、心は強くない。
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