壱 異常

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 会話も一段落したので、僕は力斗の方へと向いた。  難航しているのか、アーケードゲームの前で財布と画面を交互に見ていた。そして、百円を入れてプレイするも、直ぐに頭を抱えて財布と画面を見る……。無限ループに陥ってるじゃないか。  いつもおちょくってくる友人の苦しむ様を見るのは、少し楽しい。なんとなく気分もよくなる。 「あ、痛っ」  唯の声に思わず振り向く。  細い指先から血が出ていた。膝の上に文庫本が置かれている。おそらく、紙で切ったのだろう。 「大変だ。確かカバンに絆創膏とポケットティッシュが入ってたような……」  絆創膏とポケットティッシュを取り出し唯に渡す。  渡そうとした。
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