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桜舞う春。
全く体に馴染みのない新しい制服。
違和感ばかりのピカピカの通学鞄。
緊張と不安。いくらかの希望と期待。
私は今日から高校生なのだ。
重苦しいヘルメットを被っての自転車通学から、電車通学になったことで、「ああ、自分は今日から高校生なのだ。」という実感と、少し大人になった様なむず痒い気持ちが私の中でチリチリと心を刺激し、幾分か私を高揚させている。
しかし、初めての満員電車は想像していたよりも遥かに不愉快で、これからの3年間を思うと憂鬱な気持ちにさせているのも隠し難い事実なのだ。
今日よりもあと1時間ほど早く家を出たなら、少しは空いているのだろうか…
ああ、そんなことよりも高校生活は上手くやれるのだろうか…
友達100人とまでは言わないが、高校生活を円滑に送れる程度の友人はできるだろうか…
イジメにあうことだけは避けたいなぁ…
そんなことを鬱々と考えながら、30分程電車に揺られていらると目的の駅に間もなく到着するというアナウンスが電車内に流れた。
「テメー!何してやがんだ!!このクソ野郎!!」
ドア付近に移動しようと人混みを掻き分けて進む私の耳に男の怒鳴り声が届いた。
何事かと振り返ったと同時に電車は停止しドアが開いた。
私は人の波に押し流されるように駅のホームへ降り立つ。
「おいテメー。今自分が何したか解ってんのかコラ!ああ!?」
先ほど怒鳴り声を上げていた男だ。
スーツ姿の男の首根っこを掴み、ズルズルと男を引きずりながらホームに降りてきた。
掴まれている男はスーツ姿の中年男性。
痩せ型で少し寂しくなった頭髪に哀愁を感じさせる。
一方、怒鳴っている男は…
私と同じ学校の制服を着ている。
背は170cmぐらいだろうか…いや、もう少し高い気がする。
男にしては長めの明るい茶色の髪、耳にいくつかのキラキラと光るピアス、気崩した制服、端整な顔立ちに強気な瞳。
ああ、あれだ。
所謂ヤンキーという種の人間だ。
それも、かなり美形の。
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