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「だって…」
弱々しく呟かれる声に美少年は表情を変えることなく、僅かに小首をかしげる。
その仕草は誰が見ても可愛いと表現するだろう。
「だって!コイツがスミレの尻さわるからぁぁあ!!」
「「は?」」
予期せぬタケルの返答に私と美少年の声が重なってしまった。
幸い私の声は二人には聞こえていないようで安心する。
つまり頭の寂しい男は痴漢で、タケルの彼女か友達が被害にでもあったのだろうか。
「スミレ~!やっぱ電車通学辞めよう!」
ガバッとタケルが美少年に抱きついた。
タケルよりもひと回りほども小柄な美少年は表情ひとつ変えることなく、タケルの腕の中にすっぽりと包まれている。
え?というか、君がスミレ!?
君が痴漢されたのか!?
ひとり心の中で驚愕の事実に突っ込みながらも、いや、これだけ見目麗しければ男でも痴漢にあっても不思議ではないなと妙に納得してしまう。
「馬鹿か。電車使わなかったらどうすんだよ。自転車で通える距離じゃねえぞ。」
スミレはタケルを引きはがしながら、無表情に答えた。
「じゃあ、学校辞めよう。」
「死ね。」
それだけ言うとスミレはスタスタと改札に向かって歩いていく。
その後ろを慌ててタケルが追いかける。
そんな2人の後ろ姿を眺めながら、朝から凄いモノを見たなと、私はしばし呆然と立ち尽くしていた。
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