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「……でも」
その時、今更ながら、鳴海をこんな所に一人で置いていってもいいのかと考えた。
さっきは雪にああ言ったけど、俺達が逃げてしまったら、鳴海がどうなるかなんて、考えなくてもヤバいって事ぐらいわかる。
「……出ていくのは貴方ですよ!!!」
そう言いながら夏宮が懐から取り出したモノを認識して、自分の目を疑った。
「……ああ、やはり銃器も所持していましたか」
「……動かないでくれますか、陸様?でなければ、手が滑ってうっかり鳴海様の頭に風穴を開けてしまうかもしれませんよ?……陸様も、いくら嫌っているとはいえ、見知った人間の頭が吹き飛ぶ所は見たくはないですよね?」
夏宮の勝ち誇ったような笑みに、アイツが本気なんだと、さっきより更に窮地に追い込まれたのだと気づき唇をきつく噛み締めた。
……何やってんだよ、俺は……雪に偉そうにあんな事言っておきながら、結局お荷物になってんじゃねぇかよ……
噛み締めた唇から血が滲み、口の中に鉄の味が広がる。
……この場で、俺はただただ無力だ。何もできない、何の役にも立てない。
大事にしたい、守ろうって誓った雪でさえ守れなかった俺に何ができる?
「……藤堂さん、聞こえませんでしたか?私は、早くお行きなさいと言ったはずですが」
尚も先程と全く変わらない声音でそういう鳴海に、思わず息を呑んだ。
銃を向けられてるのに、アイツは少しも動揺していないのか……?
「……流石鳴海様……眉一つ動かさないとは…………ですが、僕だって遊びで持ち出した訳ではありませんよ?」
夏宮の不敵な言葉の後、パンッという乾いた音が響いた。
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