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「…僕のこの思いを否定なさるなんて……貴方はつくづく酷い人ですね、鳴海様」
「...裏に生きる人間が、表の人間に憧れるのは仕方がない事だと思いますよ。...ですから、その感情を恋愛感情だと勘違いするのは恥ずかしい事ではありません」
「…はは…では、鳴海様は…違うのですか?裏の世界の事など何一つ知らずに生きる人間に……憧れたり、恨んだり……憎んだり」
「私は裏の世界に生まれた事について恨んだりした事はありません。私が極道の家に生まれたのは、運命であり、必然であり、定めです。……家を継ぐ気はさらさらありませんが、自分が表の世界とはあまり相容れない存在であるという自覚はあります。…………私は感情に少し欠陥があるらしいので」
そう語る鳴海様の顔は確かに何でもない事を話しているようで。...感情に欠陥がある、だなんて。こんな平静な顔で語れるものなのか。
...僕は、あの家に生まれてから、何度自分の運命を恨んできた事か。
幼い頃からろくに遊べもせず、友人も作れず、ずっと孤独に生きてきた。
ふと気づくと人との接し方さえわからなくなっていて。そんな自分が嫌でたまらなくて。
父に教えられたのは、周りの人間は皆敵だから信用するな。怪しいと感じたらすぐに消せ。...それだけ。
...組なんか......父なんて、消えてなくなればいいとずっと思ってた。
僕を縛り、苦しめるだけのモノなんていらないと。
でも、いざ父が死に、組が潰れてからも僕の状況は変わらなくて……むしろ悪化していって……
その時、組をあれほど憎んでいたはずの自分が、結局組に依存していたのだと気づかされた。
でもその頃には、すでに表の人間からも、裏の人間からも受け入れられない半端な存在になっていて。
誰でもいいから友人というものが欲しくて。ただそれだけだった。
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