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「鳴海様は……僕からこれ以上何を奪うのですか?僕は……最初から何も持っていないのに……何も持たない、つまらない人間なのに…どうして…」
「…貴方が、私が仕事を行う上で障害になるからです」
……鳴海様と僕はあまりにも違う。持っているモノも、環境さえも。
「……僕と貴方も相容れない存在のようですね」
心を決めて再び銃を鳴海様に向けて構える。今度は至近距離で。さっきまであった迷いは完全に無くなっていた。
鳴海様もそんな僕の気持ちの変化に気づいたようだけど、それでもピクリとも表情を動かさない。
「今度は、撃ちますよ」
「やめたらどうですか?貴方、自分の手を汚した事はないのでしょう?そんな貴方では弾の無駄になるだけですよ」
「今更引けませんから。……僕は貴方を撃つ。貴方は撃たれて死ぬ。……それで終わりです」
「……別に構いませんよ。撃つなら早くしてください。さあ、どうぞ」
鳴海様は態度を変えないだけでなく、両腕を広げて無防備な姿をさらしてさえ見せた。
依然として動揺すら見せない鳴海様に驚く。これだけの窮地にありながら平静に見えるその姿は、いっそ美しくさえある。……ああ、この方は何て......
.........鳴海様は、僕には無いものをあまりにも持ちすぎている。
他人を守ろうとする心、度胸、戦闘技術、そして人望。……僕も貴方のようだったら、何か変わったんでしょうか。
父さんに認めてもらえた?友人ができた?……誰かに愛してもらえた?
でも、そんな事もう関係ない。鳴海様は今から死んでしまうから。
全てを見透かすような鳴海様の真っ直ぐ強い視線から目を逸らし、鳴海様の眉間に照準を合わせた。
……次は絶対に外さない。
そして、ゆっくりと引き金に指をかけた。
~前親衛隊隊長 夏宮和樹side end~
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