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「……先生は、なぜそんな事を私に?」
ほとんど無意識だった。ただ、担任が何で俺なんかを気にかけてくれるのか気になった。
「……お前は、噂はどうであれ俺の受け持つクラスの生徒だ。大事な教え子を気にかけるのは当たり前だろう」
「……そうですか」
ドラマなんかによくありそうな綺麗事の羅列に思わずほっとする自分がいた。
理由のない優しさなんて怖いだけだ。こんな風に教師という仕事を神格化している人ならそれでいい。
「…………ってのは建前でな」
「………………え?」
「……お前が、俺の……知り合い、にどこか似てる。いや、もしかしたら………だから…だろうな。お前見てると……何かほっとけないんだよ」
知り合いに似てる?そんな不確かな事だけで?
どことなく似てる……とか……そんなので嫌われ者を心配できんのかよ。
……やっぱりコイツ意味わかんねぇ……さっさと離れるか。
「………鳴海……お前の姓は生まれて一度も変わっていないか?」
……いきなり何の話してんだ?……脈絡ねぇ話ぶちこむなよ。
「変わっていません……が、それが何か?」
生まれた時から変わらない、俺が鳴海組の息子であるという証。
小さい頃はこの名を恨んだ事もあった。……今は別に、な。
「……そうか。今は、それだけ聞ければいい。じゃあな」
それだけ言うと、担任は何事もなかったかのように踵を返し、立ち去ってしまった。
「…………何なんだよ」
誰に言うでもなく、そんな小さな呟きが唇から溢れた。
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