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それからしばらく家に住ませてもらい、怪我が治ってから俺は家に帰った。
帰る日が来た時は帰りたくないと反発する自分と戦いながら必死に耐えた。
……もう、彰とも会う事はないのかと考えるだけでこんなにも嫌なのか。
……家に帰りたくないんじゃない、彰と離れたくなかったんだ。
久々に帰った家はそんなに離れていた訳じゃないのに、ひどく懐かしく感じた。
帰ってきた俺を見た母さんは涙を流しながら俺を抱き締めた。
いつも優しく穏やかだった母さんがこんなに感情を露にしているのを初めて見た。
そんな母さんを見つめながら、ああ母さんは俺を愛してくれていたんだなと、漠然と考えていた。
そして俺を見た父さんは普段の感情のない顔を一瞬だけ綻ばせ、おかえり、とだけ言った。
それを聞いて、俺は帰ってきてよかったのか、俺が帰る場所はちゃんとあったんだなと思いながら、自分がひどく安心している事に気づいた。
家を出た時はただただ必死で、もう帰れなくてもいい、俺に帰る場所なんかない、と考えていた。
でも俺は多分誰かに言ってほしかったんだ。俺はいなくてもいい存在じゃないんだって、帰る場所はちゃんとあるんだって。
その時胸の奥から何かが込み上げてくるような感覚がした。
ああ、俺はここにいていいんだ。俺は父さんと母さんの子どもでいていいんだ。
そう思うと、目から温かいモノが溢れてきた。
それが涙だと気づいた時、抑えていた何かが切れた気がした。俺はそのまま母さんを抱き締めて泣いた。
子どもの時以来の涙を止める方法もわからないまま、俺と母さんは二人でずっと泣いていた。
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