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「……やっぱり、わかりません。そもそも、私は他人を抱きたい、と思う気持ちがまずわかりません」
「そりゃあ、気持ちいいからだろ」
「……気持ち、いいんですか?」
「…………やめろ、そんな純粋な目で俺を見るな。いたたまれなくなる。あー、つうか今のは理由の一つだよ」
「じゃあ、他に?」
「当たり前だろ。気持ちいいからってだけでセックスしてたらただのセックス狂いだ。……考えてみろ。好きなヤツがいたら、ソイツと出来る限り近くにいたい、触れ合いたい、気持ちを共有したいって思うだろ?それを全部解決するのがセックスだ。裸で、布一枚の差分なく相手と近づける。相手の温もりだってわかるし、触れ合えて気持ちだって共有できる。……どうだ、そう考えたらすげぇだろ。つまり、セックスってのはただの生殖行為でも性欲処理でも何でもねぇ。好きあったヤツとできる一番近い接し方なんだよ」
保険医の言葉に改めて考え直す。……そんな考え方もあるのか……
ただただ快楽に溺れるだけの行為だと思っていた。……一番近い接し方、か。
「……相変わらず口が上手いですね」
「おう……って、バカ、お前……今のは」
「……ですが、ちょっと見直しました。少し、考えが変わりました。……先生のお陰…ですね。その考え方は、嫌いじゃないです」
これは割と素直な気持ちだった。コイツの考え方には一理あるように思えた。
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