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「……く……陸っ…!!」
近くで声がした。聞きなれたよく響く声。その声に誘われるようにうっすらと目を開く。瞼がやけに重たい。
「…ゆ………き……?」
いつからこうしていたのか。体の節々が痛いし、頭がぼんやりする。……何かの薬か。
体の自由がきかない事から縛られているんだと気づいた。
「良かった……陸、何かハンカチみたいなので眠らせられてから、ぴくりとも動かないから心配したぞ…」
安堵したように息をつく雪を視界に捉えると、顔が薄汚れている。……眠らせられてから、随分と雑に扱われたらしい。
意識にもやがかかったまましばらくして、先程の事を思い出した。
「…ッ…!……そうだ、雪……アイツは……アイツはどこにっ……」
「僕をお探しですか?」
コツコツという靴の音が近づいて来ると思ったら、目の前にアイツが現れた。
「お前……何で、ここに……お前は確か停学くらって再来月までは来られないはずだろ!?何でここに……」
「ふ……そうでしたか?……でも、僕がいない間にコイツが会長様にまとわりついてると思うといてもたってもいられなくて」
そう言いながら雪に向けられた顔は、憎しみ、怒り、侮蔑、それらの負の感情で歪む。
「夏宮、てめえ……」
コイツの名前は夏宮和樹。俺達と同じ二年生だ。頭がぶっ飛んだヤツだ。
怜の元親衛隊隊長で、コイツが隊長だった頃は本当に酷かった。怜に近づくヤツは誰であろうと排除。それをモットーに、コイツは何人も大怪我を負わせ病院送りにした。
.....怜の親衛隊の評判が飛び抜けて悪いのも、ほぼコイツのせいだと言ってもいいくらいだ。
......コイツのせいで、怜も......俺達も、一時期他人と関わるのが恐ろしくてたまらなかった。自分が下手に関わったヤツが、次の日いきなり学校に来なくなる。そんな事がしょっちゅうだった。
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