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カッターで切りかかってきた男をギリギリで避けた雪。でも縛られていて身動きがとりにくいようで、完全には避けきれなかったのか、雪の頬に一筋の傷ができる。
雪の頬から飛び散った血が俺の頬にかかる。生ぬるい液体が頬をつたう感覚に思わず身震いした。
幸い見た目より傷は浅かったらしく、血はそれ以上出て来なかった。
「…和樹…もうやめろよなっ!!……こんな事しても……怜は絶対に喜ばないぞ!!!」
雪のその言葉に、夏宮が一瞬だけ反応する。が、すぐに元の歪んだ笑みを浮かべる。
「そんなもの……お前に何がわかる?知った風な口をきくなよ。……早く壊れろよ」
「……!……雪、逃げろっ!!!」
「おう、任せ……ッッ!?」
「何度も避けさせると思う?」
雪を両脇から押さえ込む男達に、俺は蹴りを入れようとするが、その足さえも掴まれてしまった。
「流石陸様……眠り薬がまだ残っているでしょうに、もうその反応ですか……ですけど、邪魔をされては困ります」
「は…な……せッッ!!……雪!!!」
「さあ……コイツとはもうお別れです。……陸様、最期のご挨拶はいかがですか?」
「そんなの……誰がするか!!」
「陸様は冷たいですね……では仕方ありません。…………壊せ」
ギキギ……
思わず目を瞑りかけた。そんな時に、不似合いな重々しい音が聞こえてきて、夏宮は音の方に目をやった。
「何だ、この音……………………ああ……貴方ですか」
やけに楽しそうに呟いた夏宮につられるように同じ方向に目をやる。
「……何ですか?私がどうかしましたか?」
よく見えないが、何度も聞いた事のあるこの声。低めの声なのにやけに凛としていてよく通る声。聞き間違えるはずがない。
それは紛れもなく、怜の現親衛隊長の鳴海彰の声だった。
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