俺とタワシ

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35歳で結婚して、3年で別れて、2年経って、俺は今40歳だ。 それでも俺は彼女を思い出す。 申し訳ないと思う。 俺を好いてくれていたんだ。 支えてくれたし、美味しいご飯を作ってくれて、タワシが犬に見えるという嘘までついた。 嘘をつく事は良い事か、悪い事かなんて、俺には分からない。 少なからず俺は傷付いたが、 彼女は俺を淋しくさせないよう、俺の理解者であろうと努めて、嘘をついた。 彼女を責められはしない。 むしろ俺が責められるべきなんだ。 「お疲れ様でーす」 「ああ、お疲れ。」 「お疲れ様です!社長、今度飲みに行きましょうね!」 「お疲れ様。良いね、こ洒落たバーにでも連れていこうか。彼女を今度誘えるようにね。」 「まじですか!お願いしますよ!じゃあ、さよなら!」 「ああ、また明日。」 そうこうする内にもうすぐ8時だ。 何人か残っている社員に声をかけて回る。 帰れそうな人達には身体を壊さないように帰ってもらい、どうしても残らなければならない人達の進行状況を確認する。 そして8時、退社。 机の下のハウスで待たせていたタワシにリードを付けて、今度は胸に抱えて歩く。 新宿の夜は明るくて、暗い。 ヒトの心は陽気であり陰気だ。 腹の底から楽しいのか、空元気でそうしているのか、酒の力を借りているのか、分からない。 街の放つ強烈な光で、 ヒトの輪郭は明らかに見えるが、顔には暗い影も落ちる。 足元は尚更、だ。 タワシが踏まれない様に、人通りの多い所では、毎日胸に抱えるのだ。
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