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「洗足・センゾク、何食べたい?」
俺が河上を名字で呼ぶように、河上も俺を洗足と呼ぶ。
「今日は中華が食べたい。」
「洗足、日本語おかしいぞ、今日も、だろ。」
河上は細い目を更に細めながら笑い、タワシに水を用意してくれた。
「でも良いよ、分かった。昨日とは違う中華を作ってしんぜよう。」
そう言って、料理を始めた。
「今日は、他のお客さんはいないんだな。」
「ああ、今日は皆いつもより早く切り上げてたよ。」
「そうなんだ。」
でも俺は知っているんだ。
店の看板には、
『毎週水曜日は20時まで』
と、しっかり書いてある。
つまり毎週水曜日20時以降は、俺とタワシの貸し切りだってことさ。
「先週も、水曜日はお客さんが誰もいなかった。」
「ああ、そうだな。」
「まあ、俺もその方が良いんだがね。」
「奇遇だな。俺もさ。」
「・・・ほう。」
少し意外な返答だったので、河上の顔をじっと見た。
河上も俺をじっと見た。
お互い目は逸らさなかった。
河上はにやっと笑って、フライパンに目を戻した。
「嘘じゃないよ。俺にだって休息は必要だってことさ。」
「やりやすい、ってことか?」
「やりやすい、ってことさ。」
「そりゃ少し意外だったな。願ってもない言葉だ。」
そうして2人で笑った。
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