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支配
人には人生を大きく変える瞬間がある。私の場合は、妻を好きになった時だ。あの日のことは今でも記憶が色褪せることなく、昨日のことのように覚えている。
高校1年、春が終わりを迎えた頃。
中間テストが終わってホッとしたのも束の間、出来の悪い答案用紙が次々と返された。そしてトドメの一撃、最低な順位表を渡された。
昼休み。
絶望的な順位に頭を抱えていると、廊下から僕を呼ぶ声がした。
「おーい、晋作!」
声の主は幼なじみの伊奈美樹だった。
彼はお調子者の頑固者で、また女好きでもあったが面倒見がよく、僕が心を許せる数少ない友達であった。
「おーい!」
彼は廊下の窓から顔を出し、手招きをする。
「はあ・・・」
気の乗らない僕は無視をして、最悪の順位表を見つめ返した。その行為が気に入らなかったのか、美樹はさらにボリュームを上げて僕を呼んだ。
「高杉晋作、無視するな!」
フルネームで呼ばれた僕は慌てて美樹の元へと走り、怒った。
「フルネームで呼ぶなって、昔から言ってるだろ!」
怒る理由、それは僕自身が自分の名前を嫌っていたからだ。
高杉家のしきたりとかで、先祖代々一つ飛ばしで名前が受け継がれる祖父と同じ名前。
僕はその当たり年だったため、高杉晋作と名付けられた。あの有名な高杉晋作とは縁も所縁も無く、小学6年生の歴史の授業で散々馬鹿にされてから、この名前が大嫌いになった。
ただ明治時代から名前が受け継がれているとしても、よく続いたなあと思う。しかし、迷惑なことに変わりはない。
「無視する晋作が悪いんだよ!」
彼は不機嫌な顔をして、言い返してきた。ごもっともな意見に、素直に謝る。
「無視してスマン。あまりにもテスト結果が悪くてさ」
「そうなのか?まあ最初のテストだし、あんまり気にすんな。晋作のことだから国語だけは良かったんだろ?」
「まあ・・・」
美樹の言う通り、僕は国語だけは得意だった。読書好きだったお陰だろう。
彼のテスト結果が気になる。
「美樹はテストどーだった?順位は?」
「今回の中間テストで1番取ったヤツ、一緒に見に行かね?」
僕の質問に対して、彼は全く答える気がない。しかし、興味をそそる話なので、ついて行くことにした。
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