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はしゃぐ声はこちらまで聞こえてくる。
はしゃぎたくて仕方がないのだろう、と裕子は煙草を口に咥えた。
煙草はバーで買った。
あれほど見つからなかったジッポも簡単にバッグから見つかった。
かちん、とケースを開けて火をつける。
いつもはすぐ閉じる火をそのままにする裕子は、自分が園田真由美だったら、と妄想した。
きっと、同じようにはしゃいでいた事だろう。
それはそれは、楽しいに決まっている。
自分の幸せ話をして、それを友達にからかわれ、他の客を気にも止めずに騒いで、飲んでいた事だろう、と。
そんな妄想をかちん、とジッポのケースを閉めた音で終わらす裕子に、龍二はジントニックを飲みながら、カウンターチェアーをくるりと回し、テーブルに後ろ肘をついた。
「あいつには何もしないんだ?」
「ええ」
裕子は即答した。
「なぁんだ、面白くなるかなって思ってたのに」
「残念ね。でも、間違えないで」
強く言う裕子は前を向いたまま、龍二はそんな裕子を横目で見ながら聞いている。
「私の復讐相手は、雅文だけよ」
と、目の前のバーテンダーの動きが止まったのを裕子は見た。
ばっちり聞こえてしまったようだ。
何とも言えない顔で、グラスを拭いていた手もぴたりと止めている。
そんな彼に裕子はにっこりと微笑んだ。
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