『赤い胸』3

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「ふざけないでよ、自分でも人に話すなんて勇気がいったのに、なのに」 「人に話したんですか? それは良い事じゃないですか」 「話すりかえないでよ!」 「別にすりかえてませんって。だって雅文に関する事だもん。俺だけじゃなくて他の人にも話せたんでしょ? どう? 楽になったんじゃない?」  それは確かに、と裕子は思ったが、理沙に話した事は今は関係ない。 殴ってしまいそうな手をどうにかしようと、裕子はジッポのケースをかちゃんかちゃん、と開け閉めした。 その音は大きい。 「……確かに、ちょっと気は、晴れた」 「ほらね。その延長だと思ってください。裕子さんの嫌がる事はしない。俺がそうするのは、分かってるでしょ」  龍二はやけに裕子を見透かしたような事を言う。 「とりあえず落ち着いて。これじゃ話終わるの朝になっちゃいますし」  一定して龍二の声は落ち着いていた。 声を荒げてしまった裕子とは大違いだ。 裕子は目を伏せ、深呼吸のように息を吐く。 確かにこのままでは話は進まない。 何を聞いても否定し、他の事に口を出してしまいそうだからだ。 「……ごめん」 「俺こそごめん。先に言っておくべきでした。これからは先に言う、約束」
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