『赤い胸』3

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 深く潜っているというのは、つまりネットの海の深く、という事だろう。 裕子が自身で検索できるページが浅瀬だとしたら、深海は、と裕子は思いついた事に目が見開いた。 「……まさか、ハッカーとか言うんじゃないでしょうね?」 「ノーコメントでーす」  当たりだな、と裕子はがっくりと首を落とした。 まさか自分に犯罪染みた事をする人が関わる事になろうとは思ってもいなかった事だ。 どうしたもんだか、と悩む裕子に対して龍二は、だから何、というような表情をしている。 ルールは破るためにある、と言い出すかのように飄々としている。 裕子にもルールを破った事は何度もある。 それでも、ハッキングというのは裕子にとって凄いイメージがあったのだ。 ルールを破る事に限度はないが、限度を超えている、と。 しかし、こんな悩みを考えてもまた仕方がない、とやや皺くちゃになったプリントを伸ばした。 すると今度は龍二から質問だ。 「雅文から連絡は?」 「あるわけない」 「ふっ、即答っすか」 「あっても即答するわ。貴重な情報だもの。きっと忙しいのよ、私の事をもう忘れてしまったのね」  あ、と裕子はプリントの文字から龍二に、ちらっ、と目を移した。 龍二がこっちを見ている。 「皮肉くらい言わせてよ」 「全然いいっすよ。でも、言うならもっと酷い表現で。その方がすっきりする」  ふむ、と裕子は一理あるな、としばし黙り考える。 そして、吐き出した。
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