『赤い胸』3

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 全くだ、と裕子は手に取ったジッポのケースをかしゃんっ、と大きく鳴らす。 「でも、なんか遠回りじゃない? 今やってる事。さっさと問い詰めた方が」 「そんなの駄目だよ」  強く、低い声がした。 裕子の言葉はそれに被せられてしまった。 その凄みは、かしゃん、かしゃん、と鳴らしていたジッポのケースを鳴り止ませ、裕子の手の中に納まらせる。 室内は、しん、と静まり返った。 裕子が言ったのは間違いではないはずだ。 てっとり早い方法でもある。 同じような状況になった大概の人達はそうしている事であろう、と思ったから裕子は言ったのだ。 だが龍二はそれを遮断した。 すっぱりと刃物を振り下ろしたかのようにだ。 刃こぼれもしなさそうなその重低音は、許す事もしないだろう。 裕子が押し黙らされてからすぐ、また耳にパソコンのキーを打つ、かたかた、という音が聞こえてきた。 龍二は裕子を見ようともせず、画面に視線を真っ直ぐ向けている。 「裕子さん言ったじゃん。金と一緒だよ。つまらないって。簡単に終わらすなら、俺なんか最初から要らないだろ」  簡単に終わらせるつもりなんて裕子にもない。 微塵にもだ。 だから龍二の誘いに乗った。 雇って、決めた事だ。 つまる、つまらないは別として、龍二は何と言いたいのか、それが裕子には不明瞭だった。 「これは祭りだよ、パーティーさ」  変わらずパソコンのキーを打つ音は一定のリズムを保っている。 かたかた、かたかた。
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