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「六年半、私はあなたと付き合ってきました。信じてました。それが何も言わずにあなたはこうなってる。どうして? 私にはわからない。教えてくれる?」
敬語はほぼなくなっている。
何て聞こうか、言おうか裕子の迷いがそうした。
だが的確に質問できたと思われる。
立っていた腹はもう落ち着いた。
またしばらく雅文のだんまりに付き合うか、と裕子は待つ。
雅文の言い訳は何だ、と想像しながらコーヒーを啜った。
「……言おうとしたけど、傷つけると、思ったから、言わない方がいいんじゃないかって、思って……」
そこで雅文の言い訳は切れた。
沸騰なんてものじゃない。
裕子は爆発寸前だった。
だが冷えた感想が裕子を止める。
何それ、という感想だ。
言わない事が、言われない事がどれだけ傷つくかを雅文は考えていないのだ。
すでにある傷口に塩をぶち込まれ、かき混ぜている事にも気がついていない。
「あなた、人なの?」
裕子はそのまま口にした。
人でなし、と言いたかったがそう出てしまった。
意味が通じなかったか雅文は怪訝な顔を向けていた。
もう裕子には、雅文が何を考えているのかわからなかった。
「私はあなたのなんだったの?」
「私の気持ち、わからないでしょう?」
「私が、見えてる?」
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