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「さっきの電話だけど……」
何の前触れもなく篤くんの言葉が重い沈黙を破り、反射的に私は手にしていた缶を強く握り締めてしまう。
一度はおさまりかけた鼓動がまた激しく脈打ちだし、私を追いつめだす。
「うん……」
顔は見ることはできなかったが、何とか声を搾り出し、小さく返事をすることができた。
「会いたい……って言ったのは本心だから」
躊躇いながら発せられた言葉に私の心臓は跳ね、驚きと嬉しさでずっと俯いていた顔を上げ、篤くんの顔を見る。
暗くてあまりよくは見えないが、少し照れているようにも見えるのが仕草で読み取ることができた。
緊張はほぐれることはなかったが、缶を持った手よりも胸がじんわりと温かくなっていくのを感じる。
嬉しくて……
嬉しくて堪らなかったが、その気持ちを素直に表に出すことはできなかった。
出せなかった---篤くんには彼女が居るって分かっていたから。
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