379人が本棚に入れています
本棚に追加
……
……………サン………
……カンザキサン………
「神崎さん、神崎さん」
耳もとで名を呼ばれ、肩をトントンと叩かれる。
「……ウウ…ウウッ」
深い眠りから引き戻された私は、あまりの苦しさに目を見開いた。
くっ……苦しいっ!
体は動かず声も出ない。
喉に感じる大きな不快感にもがく。
「大丈夫だからね、今から挿管チューブ抜くから。少し苦しいけど頑張って」
麻酔医はそう言葉を掛けると、口に挿入されているチューブを抜き去った。
「ゴホッ…ゴホッゴホッ!」
挿管チューブが抜けた瞬間、激しい咳が込み上げた。
咳き込む度に、ナースが口腔内に溜まった痰と唾液を吸引する。
「大丈夫?ごめんね、苦しかったね。お疲れさま」
河合先生が覗き込み声をかける。
「…はい…」
まだ朦朧する意識の中で、かろうじて言葉を返した。
「…先生…オペは?…終わったんですか?…」
眠っていたのがほんの一瞬に感じる。
喉の違和感を残したまま声を絞り出した。
「オペは無事終わったよ。腫瘍の種類もやっぱり良性腫瘍だったから。卵巣嚢腫の中の皮様嚢胞腫。中身は人によって歯だったり黄色い脂肪だったりするけど、神崎さんのは髪の毛が一杯詰まってた」
河合先生はニッコリと微笑んだ。
…そうか、オペ終わったんだ。髪の毛…そんなものが詰まってたんだ…。
天井の照明を眩しそうに眺める。
最初のコメントを投稿しよう!