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躊躇い?
悲しみ?
…
その母の不自然な表情を見た瞬間、私の中で一度は打ち消した恐怖が呼び起こされた。
まさか…
まだ感覚の戻らない下腹部に手を当てる。
まさか…
何十枚も重ねられたぶ厚いガーゼと腹帯。
痛々しい姿に触れた手が、次第に震え出す。
「神崎さん、やっぱり捻転が起こってた。それと…腫瘍が予想してたよりも大きく広がってて…」
河合先生は、実際に目で見た状況をゆっくりと説明していく。
そして、
先生が告げた事実。
「…左の卵巣は残せなかった」
何度もその部分だけが頭の中で繰り返される。
えっ?
卵巣が…
…残せなかった?
一瞬のうちに頭が真っ白になる。
その言葉の後には何も耳に入らない。
待って…
残せなかった…って……?
ドクドクと心臓が身体を震わせる。
「綾子!綾子っ!」
……
母の叫ぶ声が遠くで聞こえる…。
目の前が真っ暗になった瞬間、私は黄色い吐物を吐き出していた。
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