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遠~い昔、とある沼の見える、小高い場所に立っていたような記憶があり、時々、夢に見る。
そこで何をしていたのかというと、その沼の主と…何やら話をしていたような…そんな気がするのだ。
いや、実際その光景は、誰にも見られていなかったのだが…
というか、見られては困るし、主の力で、普通の人には見えないようになっていたハズである。
何を話していたのかというと…
昔は皆、主のことを崇め奉っていたが、最近は主の存在すら忘れ、沼を汚し、水を汚し、自然を汚し…
などという、主の愚痴を聞いていたのだ。
私はいちいち納得して聞いていたが、最後に主は、何故か、賽銭をくれ、と、言い出した。
額はいくらかと訊ねると、持っている小銭でいいと言う。
ポケットに入っていた小銭の中から、10円玉を選って、主の希望通り、沼の真ん中に向かって投げた。
主は沼の水面から首だけ顕し、10円玉を口で受けとめると、また、何百年かの眠りについた。
この後私は、その近くまで一緒に来ていた、家族や親戚の人達の処へ戻ったが、誰も今の出来事を知らなかった。
さもあろう、わかれば大変なことになる。
何しろ、沼の中から巨大な龍が頭だけ顕し、私の投じた小銭をくわえ、また何事もなかったかのように、沼の中に消えたのであるから。
あの時から、私の運命は決まっていたのだと思う。
龍神と共に生きていかねばならぬ…
龍神は水の中に棲む。
水を汚す者、龍神の怒りを被るであろう。
私は水の番人。
水を見て、流れを見て、清らかさを保つ。
水の清らかさは、人の心の清らかさ。
人の心が乱れ、汚れると、私が始末しなければならない。
でなければ龍神が怒り、心の汚れた人を喰らってしまう。
龍神の眠りを妨げる者、その大いなる怒りを被るであろう。
私は水の番人…
人の心の番人…
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