第1話 私となり

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その後私は結婚し、子を設け、とある工場の排水処理と、その水質管理の仕事に就いている。 濃硫酸や弗化水素酸などという、そのまま浴びたら骨まで溶けてしまうような、劇薬を使う仕事である。 その、使用後の水、大分希釈された排水でさえ、皮膚にはねると、火傷のように水ぶくれになる。 その水を、飲めはしないが、せめてトイレの手洗い水くらいにして、社外の下水道へ放流するのが、私の仕事である。 やはり、運命なのだろうか。 何年か前に機会があり、鎌倉の弁天様へ詣ったことがあった。 弁天様とは七福神の紅一点、弁財天のことで、その正体は大蛇や龍であると、聞いたことがある。 駐車場がいっぱいで、片側が切り立った岩山肌の、薄暗い場所に路駐して、小休止した。 すると正に、大蛇か龍の巣と見紛うような大きな穴が、その山肌にいくつも開いていたのだ。 『ここは昔、龍の巣だったのかもしれないな。今回、私が此処へ詣ることになったのは、古からの因縁かも知れない。それとも龍神様が、私に何か伝えようとしているのか…』 考え過ぎかも知れないが、私はそんな気がして仕方がなかった。 その後、特に何の暗示もないが、また何か変わったことがあったら、お伝えしようと思っている。
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