第1話

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「遅い」 パンフレットを片手に、職員室を目指した。 時間だって、ギリギリどころか10分前だ。それなのに、担任の先生から初っぱなの発言がそれかよ。 見た目は、今まで会った先生の中一番顔が整っている。イケメン初めてみた。 「…済みません」 不満はあるが、我慢。多分、顔には多少出てるかも。多分、ね。 「そんじゃあ、教室に行くか」 「はい」 心なしか、緊張が高まる。上がり症な俺は、まともに挨拶出来るだろうか。 いや、噛まずに言える気がしない。もしかしたら、上手く言えたら…は無いか。 はあ、面倒臭い。取り敢えず、名前だけでいいや。 決して、投げやりでは無い。浮かばない結果がこれである。 本当に、お粗末だな。 「お前……」 「はい」 「制服に着せられてるって感じだな」 「………」 わかってたさ。でもさ、他人には言われたくなかった。 似合わないって、知ってるのに。 「それと、ネクタイ…曲がってるぞ」 担任の中垣先生は、手慣れた様子で俺のネクタイを真っ直ぐに整えてくれた。 「あ、ありがとうごさいます」 「おう」 ニッと笑う中垣先生にほんの少しだけ、緊張が溶け…ませんでした。 教室を目の前にした途端、緊張がマックスまで上がる。口から、心臓が出そうな勢いだ。 乾燥する口の中。変に、手だけが汗が出る。 「おい」 「ッひゃい!!」 飛び上がる勢い。 いや、飛び上がった。数センチくらい。 中垣先生は驚いた表情をしたかと思えば、プッと笑いだした。それはもう、腹を抱えながら。 引きこもりになろうかな。 「ひゃいって…はぁ、笑った。取り敢えず堂々としてりゃあ、何とかある。名前呼ぶから、教室に入ってこい」 「わ、わかりました」 堂々とか。俺には無いものだな。 でも、出来るとか出来ないじゃないよな。 やるか、やらないか。 俺は、自分の頬をパンッと叩いて気合いを入れた。 ちょっとだけ、いけそうな気がした。
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