Four years ago 井ノ山 響

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でも『あの日』は違った。 綺麗じゃなかった。 人間ってこんなに貪欲で汚くて、自分勝手で、 こんなに欲情するんだと知った。 あのゴツくて大きな指がゆっくり侵入してきて、 中で動くだけで頭が真っ白になっていった。 何も考えられなくて、気持ちよくて意識を手放さないように、背中に何度も何度も爪を立てた。 歯を立てた。 獣みたいにお互いを求めて、馬鹿みたいに何度も何度も求めて。 どちらの汗か分からないが、シーツは濡れていく。 汚くて、淫らで、動物みたいに浅ましくて。 こんな感情、初めて知った。 こんな醜い自分、知りたくも無かった。 そらは俺しか知らなかった。 綺麗で、ただただ純粋に俺を抱き締めてくれた。 横で鼾を豪快に掻いて眠るオッサンを見て、馬鹿みたいに涙が出た。 俺から綺麗な感情を奪って、 汚い自分をさらけ出されて、 愛情なんて持てない。憎くて憎くて。 次は、ない。 絶対にもう屈服するもんか。 逃げた。逃げた俺に獣は喉元に噛みつこうと襲いかかった。 『お前の事務所とモデルの仕事、どうなってもいいんだな』 ああ、憎い。脅されて震える俺が、情けない。 『逃がさない。お前は俺のだ』 そう言われて俺は、あの日、あのホテルに向かった。 震える身体で、ロビーであの人を待った。 ――そして、聖さんに助けられたんだ。
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