Four years ago 井ノ山 響

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「お兄さん!!」 家に帰って、2階にかけ上がると、お兄さんはソファに座り腕の服を目繰り上げていた。 めくりあげた腕は擦り傷や引っ掻き傷だらけ。 お兄さんは只でさえ色が白いから、赤く浮かんだ傷は痛々しい。 「怪我?」 「はい。響にやられました」 ぺろっと傷口を舐めるお兄さんはなかなか工口い。 いやセクシーと言うべきか。 「響は?」 「縛ってベットに転がしています」 「は?」 「どうしても言うことを聞かないので。あ、そんな趣味はありませんから」 何気なくそう言われて、どうして良いのか分からなくなる。 私は黙って名刺を差し出した。 「『Loup』代表取締役 嘉山狼(かやま ろう)」 「その人、私の名前知ってた。私の荷物も人質だって。この店も知ってるみたい」 「そらは、何もされませんでした!? 偶然会ったのですか?」 「うん。でも偶然を装われてただけかも」 「――嘉山狼……」 お兄さんが唇を噛み締めて、名刺を握り潰した。 「『あの日』って何? あの人、なんで響に執着してんの?」 「……それは」 「教えてくれたら、引っ越し荷物チャラにする。諦めても良いよ」
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