Four years ago 井ノ山 響

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「じゃあ、響の居る僕の部屋に行きましょう」 するりと肩に手を置かれて、ぞくぞくと甘く背中が痺れた。こんな時に、何を意識してんだか。 「それと、そら。僕は『お兄さん』じゃなくて名前で呼んで下さいね」 「あー……はいはい」 急には無理なのに。 「あまり甘えてくれないなら拗ねちゃいますよ」 そう微笑んでくれたけど、ぐしゃぐしゃにした名刺を強く握り締めて緊張しているのが分かった。 「お兄さんが……。じゃなくて聖さんが甘えてくるから私が甘えられないの」 「なるほど」 扉を開けながら、ふむふむと頷くお兄さん……じゃなくて聖さん。 「でも甘えない僕に魅力なんてあるんですかね?」 「響に聞いてみたら?」 私も冗談めいて緊張をほぐすように皮肉を吐き出した。 「んー。んー!」 「はいはい。今、ほどきますよ」 ネクタイで口と足と後ろ手に腕を縛られた響が、海老のように動き回っていてちょっと可愛いかった。 いや、真面目な場面だから、言わないけど。 「ぷはっ 聖さん! そら! これをほどけよ!」 「話を聞いたらね」 「だそうです」
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