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「…………」
足を忍ばせて、風呂場に向かった。
シャワーの音は依然として止まらない。
開け放たれた扉から中を覗くと、お風呂から湯気と二人のシルエットが浮かんでいる。
「見つかってしまったんですね?」
「うん……」
「事務所を辞めた今、脅される事はないでしょう?」
――脅し?
「でも、そらの荷物があるから、逃げるの止めなきゃいけない。こればかりは、俺の責任だし」
「――こんなに震えているのに?」
「怖い。怖いよ、聖さん。俺」
弱気で縋る響の声。
聞きたくなかった。聞きたくなんて、なかった。
どんな言葉をかけて良いか分からずに、
私は静也くんのお店に逃げ込んでしまった。
「なんつー顔してるんだよ。そらちゃん」
ホット珈琲を出されて、身体の芯が温まってきた。
静也くんは昔から静也くんのままで安心した。
綺麗だけど男らしくなったお兄さんに、
別人のように弱くなってしまった響。
だから私は、馬鹿みたいに翻弄されてるんだ。
「お兄さんと寝た」
「!!?」
お湯が入ったポットをわざとらしく落とされた。
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