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わくわくしてた。
寒い海で、夏のように振る舞わなきゃいけなくて。
自分を表現するの、滅茶苦茶楽しかった。
何人か地元の女の子たちが来ていたのも嬉しかったな。
雑誌でモデルしてるぐらいの俺に、黄色い声援を送ってくれて。
――そらに会ったのはその時だった。
頬を染めて俺に手を振ったり、名前を呼んでくれたりする女の子たちの中で、一人毛並みが違ってた。
なつかない猫みたいに、凛とこちらを見つめて。
時折、海を見て寒そうに顔を歪めているし。
表情に意外と出ているの、分かってないんだろうな。
プライドが高い子猫は、綺麗な瞳で此方を見ている。
笑ったら可愛いだろうに。
誰に対してあんな顔をしてんだろう。
気になったから、撮影の打ち上げで酔いを冷ますために海に来た時、まだあの子がいて驚いた。
――そして、嬉しかった。
想像した通り、喋ったらちょっとキツい口調だったけど、素直で可愛くて。
笑顔、見せてくれないかな?って興味を持った。
まだ俺には、仕事の楽しさと、男としての自信が溢れていた時の話だけど。
権力に屈伏したり、自分より強い男が現れる前の、
淡い淡い、初恋の話。
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