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8年もやっていれば一人前の乗船員だが、ブラッドストーンとの間には次元の違いとも言える絶望的な差がある事をピローは悟った。同格である筈のディアドーラとで比較しても、細胞の一つに至るまで類似点はない。海運業社の身分でかくも容易に人を殺せてしまうのも不自然極まりない。
「強力な情報源がおありで。しかしそれだけではない。乗船員も訓練されています。船長。貴方は何者ですか。よもやジョン・ブレーカーが貴方なのでは。」
聡明なるを鳴り物としてブラッドストーン配下に抜擢されたピローの真価を証明するような問いである。
「よく言われるが、ジョン・ブレーカーとは相対の立場にある。また、奴がカリブ海にいた頃の俺の職場は南太平洋だ。しかし君は賢いな。ではもうひとつ君に言っておきたい事がある。」
ブラッドストーンは続けた。
「人間と呼ばれるものは皆、道義というものをわきまえていなければならない。皮(がわ)が人のようでも精神が獣ならば鼠と同格に扱ってやればいい。俺が今駆除した奴らは皆、間違えて人から生まれた鼠だ。」
「成長の過程にあって獣に身分を落としたのではないのですか。生まれつきの獣でもないし更正の余地もある。違いますか?」
「それでは間に合わんよ君。」
ピローの理知的なる正論をブラッドストーンは間髪入れず一笑に伏した。
「君が甲板で天空を仰いで感傷にふけっていた時、背後で君の命を落とさんとしていた海賊にも君は更正の余地を与える暇(いとま)があるのかね。更正の機会を得ることなく、獣のままで生涯を終えるかも知れぬ輩の為に我が身を粗末に扱う方が余程罪深い。」
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