カリブ

13/26
前へ
/26ページ
次へ
そして、次の一言がピローの人生にとっての分水領となった。 「君は、人を殺すという事がどういう事か知らんのだよ。」 ピローの持つ確立された偽善など、どのみち現実を前にして挫折する。しかし自らの手を汚してまで生き抜く精神力はない。故に大衆は善であれ悪であれ英雄を求め、その大樹の影で自らは理想に興じ、神に名指しされぬよう有象無象に紛れて嵐の去るのを待っている。それが大衆の正体なのである。 「私は船乗りですから。」 「カリブ海じゃ君はただ船に乗っているだけだ。」 ブラッドストーンは煙草に火を灯した。 「だが君には見込みがある。さっき面白い事を修羅場で言ってたな。」 「面白い事?」 「ツキのない事に、まずい船を襲ったもんだな。と俺に歌舞いた。つまり覚悟はできているようだ。」 銃口を向けられ窮地に立った時、啖呵を切ったあの瞬間の事である。 「実のところ船長を信じていましてね。撃たれる筈はないと思っていたものですから。腹が立ちまして。」
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加