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そして、次の一言がピローの人生にとっての分水領となった。
「君は、人を殺すという事がどういう事か知らんのだよ。」
ピローの持つ確立された偽善など、どのみち現実を前にして挫折する。しかし自らの手を汚してまで生き抜く精神力はない。故に大衆は善であれ悪であれ英雄を求め、その大樹の影で自らは理想に興じ、神に名指しされぬよう有象無象に紛れて嵐の去るのを待っている。それが大衆の正体なのである。
「私は船乗りですから。」
「カリブ海じゃ君はただ船に乗っているだけだ。」
ブラッドストーンは煙草に火を灯した。
「だが君には見込みがある。さっき面白い事を修羅場で言ってたな。」
「面白い事?」
「ツキのない事に、まずい船を襲ったもんだな。と俺に歌舞いた。つまり覚悟はできているようだ。」
銃口を向けられ窮地に立った時、啖呵を切ったあの瞬間の事である。
「実のところ船長を信じていましてね。撃たれる筈はないと思っていたものですから。腹が立ちまして。」
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