カリブ

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フロリダ州ガルフポート港から東南へ向かい、メキシコはメリダ島近海をかすめてホンジュラス~ニカラグアと進みそこからコロンビアはバランキヤ港まで、というのがラピスラズリ号の航行ルートである。 かつてジョン・ブレーカーやそれ以前の名だたる海賊が栄華を誇った時代の危険地帯とされたのがこの内のニカラグア領海である。カヨ・マヨール島付近で北に1、東に1、南西に2つの島があり、ここが海賊の一時的な拠点となっていた。 2ヵ月前の軍事兵器輸送船襲撃事件はそこからさらに南下した位置にあるサンアンドレス島の北西にある無人島が拠点であったと推定されており、事実のちの捜査で関連する物品が少数ではあるがここから発見されている。 通常海賊というのは一般人に紛れている。映画に観るような海賊船になど乗ってはいない。一皮剥いても海賊船とは思えぬような外観でそこかしこの船着き場にリベートを払うか恫喝も交えるかして堂々と潜んでいる。そして獲物を至近距離に置いたとき、その牙を剥くのである。 「軍や各国海上巡視本部からの警告はなにもありません。奴ら金も人もないって話ですから。」 乗船員のジャンヌ・ピローから気の抜けた内容の報告が入った。 「俺ならやられんという事だろう。それにどこの国も戦争が出来ない。つまり懸案が山積みになるばかりで外交は錆びだらけだ。よもや海賊対策になんぞ本気にならんさ。」 「軍事兵器が奪われてもですか。」 「正規顧客の手に渡ってもその後テロリストへ横流しされれば同じ事だろう。」 「政府がテロリストへ横流し?」 「代理戦争だ。国の名義で戦争が出来る時代じゃない。」
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