カリブ

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だが、部下のピローはブラッドストーン譲りであった。参謀に置いても手合い違いになることが多くなり、社長のエドワード・マティスへとりあってブラッドストーンに見てもらうよう進言した。 ピローにしてみればブラッドストーンは伝説そのものであり、配属の一報はまさに天からの光明であった。しかし、場合によっては世に噂される海賊狩りの修羅場に遭遇する危険もあり得た。 配置変えの際、エドワード・マティス社長はピローにこう言った。 「奴の下に付いたらあらゆる概念を捨てろ。そしてカリブで何か起こっても俺に報告するな。」 つまりはカリブ海で有事があってもブラッドストーンが切り抜けるが、その手法については口外せず、墓場まで持っていけという事らしい。 船はメキシコ領海からホンジュラス領海に入ろうとしていた。深夜の3時である。 ピローは少しの仮眠を取り終えると、最後方の甲板に出て天空を仰いだ。カリブ海の星空に包まれるのは初めてである。そして太平洋にはない魔性をすぐさま感じとった。星々から、月明かりに揺れる波から、その狭間で重く、冷たく沈む空気からの何かしら視線のようなものを感じた。隙あらば汝のその命天に捧げん、とでも言いたげな神聖なる魔性、そうした霊力をこの海は放っているようにピローは感じた。ここはそういうものが集まる場所なのだと。
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