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「今日が最後だよ! しっかりと配りきろう!」
そんな姉さんの掛け声とともに、さいたま支部を飛び立ったのは今から三時間前。本当なら配り終えるまでに必要な時間はこの半分位のはずなのに、なかなかうまくいってくれない。
最後の病院にたどり着いたのは、予定より二時間もオーバーした午前二時すぎだった。
小児病棟の窓の外にそっとプレゼントを置くと、急いで目的の窓辺へ。0時まで起きてろ、そうメールしたのは遥か四時間も前のことだ。
さすがにもう寝てしまっただろうか?
僅かな期待を込めて、メールを送る。
まだ、起きてるか? と。
その返事は、数分も経たずに、短い言葉で帰ってきた。
「うん」
そう、一言だけ。
その文面を確認するやいなや、急いで窓辺にトナカイを寄せる。
コンコンと二回ノック。更にもう一度。
そして、三度目のノックをしようとした直前。その窓は開かれた。
「おにい……ちゃん?」
「よっ、紗綾。メリークリスマス! ほら」
「えっ、ええっ? ちょっとこれ何? なんで外から……ここ何階だかわかってるの?」
「いいから、それ着てくれ。そとは寒いんだからさ」
「外?」
「あぁ。――空の散歩に連れてってやるよ」
サンタの制服でもある、赤服をみに纏わせた妹が、恐る恐るトナカイにまたがったのは、それから五分後のことだった。
「お、おちちゃうよ!?」
「大丈夫だから、捕まってろ。行くぞ!」
病院の窓際から急いで高度を稼ぐとイルミネーションが光る街中へ。
いつかきっと、父さんがやりたがってたであろうそらの散歩へトナカイをすべらせた。
栞姉から、そして母さんから教えてもらった事を後ろに捕まる紗綾に聞かせながら、街の端から端まで、全てを見せるように、ゆっくりとトナカイを走らせた。
「少しは、気に入ったか?」
「うん……うん、お父さんと兄さんのサプライズプレゼント! ちゃんともらったよ!」
嬉しそうなさやの声を聞いて、俺は少しだけ、本物のサンタクロースになれた気がしたんだ。
今年になってようやく気づけた事は多く、返せるものは少ないかもしれないけど、少しずつやっていこうと思う。
手始めは、またサンタクロースとして、来年のクリスマスに再び飛ぶことを目標として。
終
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