第三章

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「で、クリスマスプレゼントは何が良いんだ?」 「要らないってば。子供じゃあるまいし」  そんな会話が始まったのは、俺の飛行訓練が終わってからたっぷりと十一時間後。最後に確認に行った、病院の中で、だ。  白い個室。その中に置かれた、少し大きめのベットに少女がひとり座って居る。  華奢な身体に、ピンクの花柄を彩ったパジャマを着てふて腐れているのは、俺の妹様でもある紗綾。 「まだ成人してないんだから子供で良いんじゃないか?」 「自分が成人したからって、大人ぶっちゃってさー。成人式だってまだなのに」 「なったもんはなったんだから……しょうがないだろ」  新しく水を入れ換えた花瓶に、今朝持ってきた切り花を入れていく。  今朝、栞姉から持ってってくれと言われた物だから名前は分からないが、良い匂いのする花だ。寒くなってきて締め切り状態の室内に、キツすぎない甘い香りが漂い始める。 「それ、栞姉から貰ったでしょ」 「ん? そうだけど……何でわかったんだ?」 「兄さんには、花を選ぶセンスのセの字も無さそうだし」 「お前なぁ……」  例え本当の事だとしても、言わないで黙っておく優しさって、あっても良いと思うぞ。  思わず溜め息を吐く俺とは対照的に、クスリと 笑いながら、コロンとベットに寝転がる紗綾。 「ごめんごめん、一割くらい嘘。その花、今度買ってきてくれるって栞姉言ってたからさ」 「そうだったのか」  あれだけ夜に働いて、昼間には大学にも顔を出して、紗綾の所にも寄って。あの人はちゃんと寝てんのか?  人の心配をしてる身分じゃないのは分かっちゃいるんだけど……取り敢えず、この花の事はきちんと礼を言わなくちゃな。って、ん? 「今、一割位って言ったか? 九割本心だったよな?」 「かわいい妹からの警告だよ。もっとセンスを磨けって」  にっこりと元気な顔で笑ってくれるのは、大いに結構なんだが……内容が内容なだけに俺は笑えないぞ? 「そこは嘘でも良いから嘘だと言っとけ。悪いようにはならないから」 「ごめん、実は嘘だったの……」 「そう、それで良いんだって」 「本当は本心から駄目だなって思ってた 」 「もう、がっかりしか出来ねぇよ……ったく。じゃあ帰るからな」 「はーい、気を付けてねー」  何時も通りと言えば、何時も通りの面会の帰り道なんだけど……結局今日も聞き出せなかったな
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