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終章
仏壇にお線香を立て、何かを語りかけるように手を合わせる母さん。
それを終えると、すぐに出発しそうなところを強引に引き止めて、今朝栞姉から聞いた事を確認すると、少し困ったような、寂しそうな顔を浮かべながら「そう」と、一言呟いた。
「俺はサンタが嫌いだ。嫌いだと、そう思い込んでた。父さんが死んだのはサンタのせいだって、あの頃は本気で思ってたから」
俺が聞かされていたのは、プレゼントを運ぶ途中で事故にあった。という一言だけ。だから、本当にサンタが居れば、本当のサンタが全員の子供にプレゼントを配れていれば、父さんは死ななかったのにと、本気で考えていた。
「だけど、違った。父さんがサンタだったんだな」
「そうよ。貴方たちにプレゼントを届けるんだって、子供みたいに喜んでた」
「そっか……そうだったのか」
そっと、視線を笑顔の父さんの写真へと向ける。あのひとは、俺にとって……俺たちにとって、本当のサンタになろうとしてたんだな。
「クリスマスが来ると、あなたたちも辛そうだったから、何も言えなかったのよ。ごめんね」
「母さんが謝ることじゃないって」
これで、少しは母さんの肩の荷も降りるだろうか?
今まで言おうとして、でも言えなかった日々が続いて、子供は父親の別の姿を、サンタクロースを嫌いになって、辛くないはずがない。
「それじゃあ俺が、父さんの代わり、やるよ」
「晃が? まさか……」
「これから、飛んでくる。父さんの分まで」
「そう。そうだったの……」
それきり、何も言わないまま出発の準備を始める母さんが次に声を発したのは、出る直前だった。
「それじゃ……事故にだけは気をつけて」
「あぁ」
「紗綾の事もよろしくね」
「わかった」
それだけ言うと、ぱたりと玄関を閉める母さん。
おそらく俺が何をしようとしてるのかも、検討がついてるのだろう。
「本物のサンタになるために、いっちょ頑張るか」
一人気合を入れると、着替え、サンタ用の端末。それと、トレードマークの赤服を二着入れると火の元を確認して、一年を締めくくるためにさいたま支部へと足を向けた。
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