2人が本棚に入れています
本棚に追加
「サンタ? 栞姉が?」
「あー、信じてないね?」
ムッとしながらも、手を差し出してくれる栞姉。
何か気恥ずかしくて、その手を断ると、自力で立ち上がってから、何時も通りの口を開いた。
「信じるも何も、サンタがこんな町中をバイクで疾走はしないだろ」
「バイクじゃないよ! あたしのトナカイ!」
「いや、トナカイって、言われても……」
チラリと視線を動かす。トナカイと呼ばれたバイクっぽい乗り物へと。
確かに、バイクではない。どちらかと言うと雪山で見かけるスノーモービルに似ている。だけど、こんな住宅地を走れるなんて、バイク以外には考えられないんだが。
「あ、コーちゃん。私、まだプレゼント配らなきゃだから、もう行くね。車とバイクとサンタに気を付けるんだよー」
「ぶつかってくるサンタは姉さん位だからな!」
「え? サンタに見える? やだ、もう照れるわー」
「自分で言ったんだろ。サンタこそ人殺さないよう安全運転でな」
よいしょっと声を出しながら、大形スノーモービルに跨がる姉さん。
両手足を確認すると、にっこりと笑って、
「だいじょぶ! さっきのはコーちゃんを驚かそうと思っただけだから」
「驚く前に死ぬっての!」
「大変! 死なないよう、気を付けてね!」
「姉さんの……って、もう良いや。まだ何か残ってんだろ?」
「そだねー。じゃあ、コーちゃん。気を付けて帰るんだよ!」
ヒラヒラと振っていた手で、スノーモービルっぽいトナカイとやらのハンドルを握り込む。
ぐいっと栞姉がハンドルを回した瞬間だった。
「え? 浮いて……」
最後にもう一度にっこり笑うと、ふわり夜空へと舞い上がる栞姉とトナカイ、それに沢山のプレゼント達。
そんな光景が忘れられなかったからだろうか? 姉さんに引っ張られるまま、嫌いだった筈のサンタ。その服に、袖を通すことになるのは、それから、一月経った一月の中頃だった。
最初のコメントを投稿しよう!